皇學館大学|教育学部
研究活動
 
伊勢市ウォーキングマップ

 メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という言葉を知っていますか?メタボリックシンドロームとは、内臓脂肪の蓄積が基盤となる高脂血症、高血圧症、耐糖能異常もしくは糖尿病から構成されるもので、それぞれが重複した場合は命にかかわることもあります。

 これは、食べ過ぎ・飲み過ぎや運動不足など、悪い生活習慣の積み重ねが原因となって生じます。身体運動は、これらの予防もしくは治療方法として、極めて有効に働くと考えられます。

 平成15年国民健康・栄養調査によれば、1日あたりの歩数とメタボリックシンドロームの間には有意な負の関係が見られます。これは、歩数を増加させることが、メタボリックシンドロームの減少につながるということです。

 1940年代からのデータでは、自動車の登録台数と糖尿病の有病率は比例しています。自動車の普及は「歩かない生活」を意味します。食事の欧米化にともなう脂肪摂取量の増加とあいまって、肥満(BMIが大きくなる傾向)、そして糖尿病を増加させているのです。

 運動は、私たちの身体を若く保つだけでなく、強く柔軟にしてくれます。そして、そのトレーニング効果は、年齢が上がっても変わらずに見られます。

伊勢市ウォーキングマップ 右図は、4.8kmのコースを週3回、3週間歩いた時の変化です。ウォーキングを続けていくと、自覚的な運動強度は下がる(楽に感じる)のに、足は速くなっていくことがわかります。同時に、歩幅が大きくなることで、その歩行に要した歩数は減っていきます。

 これは、心肺機能が向上したのと同時に、大きな歩幅を生み出す筋力がついてきたことの証明です。「歩く」ことを生活に取り入れただけで、こんなにも身体能力が上がるのです。

 ウォーキングは、身体の健康も保持・増進してくれます。下表は、ウォーキングが血液中の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ善玉コレステロール「HDLコレステロール」を増加させ、コレステロールを必要以上に届け、血管を硬化させてしまう「LDLコレステロール」を減少させることを示しています。蓄積されると体脂肪になる中性脂肪もウォーキングによって減少しています。

 個々のウォーキング参加者をみると、その効果は歴然です。AさんとBさんは、基準値より高かったLDLコレステロールと中性脂肪がウォーキングをすることによって、基準値もしくはそれに近い値まで改善されたことがわかります。

項目 単位 基準値 ウォーキング
トレーニング
総コレステロール T-Ch mg/dl 150-219 224.3 222.0
HDLコレステロール HDL mg/dl 40-95 62.3 66.9
LDLコレステロール LDL mg/dl 0-150 142.0 134.5
中性脂肪 TG mg/dl 50-149 93.6 83.7
血糖 Glu mg/dl 70-109 95.5 96.1
項目 単位 基準値 参加者 ウォーキング
トレーニング
LDL mg/dl 0-150 A 207 178
B 193 141
TG mg/dl 50-149 A 234 151
B 163 74

 「歩く」ことは血液もきれいにしてくれるのです。

 「運動は苦しいものだ。」「苦しくなければ運動の効果はない。」そんな運動に対するイメージを持たれている方も多いと思います。でも、強い軽いではなく、「運動をする」ことが重要です。一番重要なのは、「楽しく続けていく」ことなのです。

 ここに、空腹時の血糖値が110〜126mg/dLを示す糖尿病予備群を対象とした3週間、週3回にわたる自転車ペダリング(自転車漕ぎ)の実験結果があります。参加者に課した運動は、30分間自転車のペダリング後、5分間休憩、その後また30分間のペダリングというもので、その負荷は非常に軽いものでした。

伊勢市ウォーキングマップ 右図のように、運動は、血糖値を大きく低下させました。これは、血液中の糖が筋肉に取り込まれ、エネルギーとして用いられたことを意味します。

 軽い負荷で長時間にわたるこのような運動は、有酸素運動といわれます。身体運動のエネルギー源である糖を酸素なしに分解した時に生じる乳酸が血液中に流れ出た血中乳酸値のグラフはそれを良く表しています。

 強い運動では、酸素を身体に取り込む暇がないため、この乳酸が蓄積し、疲労を感じる状態になります。しかし、酸素を使った運動では、この乳酸を水と二酸化炭素に完全分解し、さらなるエネルギーを生み出します。したがって、酸素をたくさん取り入れて行う有酸素運動では、運動後、血中乳酸値が下がることがよくあります。疲れている時、軽い運動を行うと、逆に疲労が取れるといったケースはそのためです。

伊勢市ウォーキングマップ 継続的な有酸素運動は、糖を筋に取り込む能力を大幅に改善し、持久性能力を向上させます。糖尿病予備群であった参加者達も、運動によって、右図のように糖を身体に取り込む能力が向上し、食後、高いままであった血糖値も改善されました。運動は迫りくる糖尿病から我々を守ってくれるのです。

 身体運動学研究室では、日常生活の中で多くの人が健康を保持・増進できるよう、伊勢市健康課と協力しながら、市内にウォーキングルートを作成し、その運動量を調べています。ウォーキングは、特別な用具も要らず、誰でも、どこでも、気軽に行うことの出来る運動です。ウォーキングを始めるきっかけとして、作成したコースが利用され、運動習慣をつける一因となればうれしいです。

 詳しいウォーキングルートについては、伊勢市ホームページ(健康・福祉)を参照してください。
http://www.city.ise.mie.jp/www/toppage/0000000000000/APM03000.html

(注)本研究の一部の結果は、体育の科学(杏林書院)第57巻第8号(2007年)に掲載されています

 
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